佐武一郎,線型代数学(新装版),裳華房(2015)

やっと買った。前にも書いたが、

は持っていなかった。行列と行列式を持っているので買うタイミングがなかったのだ。違いは第5章のテンソルを追加したことだけのようだ。

第1章、数ベクトルから出発して、第2節で行列の積を天下り式に定義するものの、第4節で一次写像の合成写像の表現という行列の積の意味を述べる。第5節に実数と複素数について述べ、2次行列の複素数の対応、4次行列と四元数の対応を述べ、代数学の基本定理についても述べる。そして早くも内積を定義。研究課題に行列の指数関数と行列の微分方程式を述べるのは良い意味で頭がおかしいが、Lie 代数推しだから。

第2章、行列式。置換経由で行列式を定義し,逆置換を利用して転置行列の行列式を示す。その後多重線形性による特徴付け。行列式の展開、クラメル。積の行列式、Binet-Cauchy と Lagrange の恒等式、ベクトル積。応用で終結式とヤコビ行列式を出すのは良い。ついでに書きたいことは書いてしまう感じ。研究課題も書きたいから書いているだけなのが良い。

第3章、ベクトル空間。一次独立、Gram 行列、部分空間、正規直交系と直交補空間、ランク、連立方程式の解空間、ベクトル空間の公理化で直交関数系、基底変換、直交変換とユニタリー変換。研究課題は羃等行列と射影子、線型連立微分方程式。Wronski の行列式

第4章、行列の標準化。固有値固有ベクトル、固有多項式。Hamilton-Cayley は余因子を利用した方法。固有空間の分解で Jordan 標準形。対称行列の標準化と二次形式とシルベスターの慣性法則。正規行列。直交行列のなす群と Cayley 変換で O(n) の Lie 群、O(3) の Lie 環に触れる。

第5章、テンソル代数。これが新しく書き加えられた章である。普通の線型代数の範疇は超えているので、これが佐武が難しいと言われる要因か?特に第5章は、前半から15年過ぎて書かれたこともあってか、これまでの章に比べて淡々と事実が積み上げられて行くので(精一杯詰め込んだ感がある)、この淡々と事実を積み重ねる議論に慣れることが一般の数学書を読むときの試金石のような感じがする。

まず双一次写像の復習。テンソル積と重一次写像。共変テンソルと反変テンソル、対称テンソルと交代テンソル、グラスマン代数、プリュッカー座標、係数体の拡大、対称群と一般線型群の表現論。

附録に幾何ベクトルの話。ついでに射影空間についても話す。

群や環について習った後に読み返すと、それほど難しくなく感じるのではないだろうか。

線型代数の多くの本で扱ってない話題が、
永田雅宜著,理系のための線型代数の基礎,紀伊國屋書店(1987) - 球面倶楽部 零八式 mark II
と似てなくもない。15年ぶりに読み直してみよう。