鉄は金偏に失うと書くが、鉄と失うという字は関係ない。
「鉄」は旧字体で「鐵」と書く。この作りは黒いという意味で「くろがね」という意味。鐵には異体字「銕」がある。
博文館(現在の博友社)の新修漢和大字典
- 作者: 小柳司気太
- 出版社/メーカー: 博友社
- 発売日: 2000
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(調べたのは昭和12年版)で鐵を引くと、俗字として「鉄」が紹介されていたので「鐵」を「鉄」と書くのは古くから行なわれていたようだ。このような俗字が戦後に新字体として採用されることも多く、「鐵」もそのような経緯で「鉄」と表記されるようになったのであろう。
なお、「鉄」という漢字はもとからあって、その字は糸偏に失う「糸失」という漢字の古字で「縄」とか「縫う」という意味だそうだ。このような意味が全然違う漢字が「くろがね」を表す漢字になったのは、おそらく「銕」が簡略化されて「鉄」という字になったのではないかと思う。
tonan's blog にも
夏目漱石の「鉄」
http://tonan.seesaa.net/article/105698603.html
とあるように、夏目漱石も「鉄」と表記していたようで、やはり「銕」から変じた異体字と思われる字とある。「銕」を簡略してみると、既にあった文字「鉄」になってしまったという感じか。
なお、冨山房の詳解漢和大字典
- 作者: 服部宇之吉,小柳司気太
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(調べたのは大正11年版)で「鐵」を調べてみると、「鉄」は誤字とある。誤字が人口に膾炙したら俗字になるから同じことか。
なお諸橋の大漢和辞典
- 作者: 諸橋轍次
- 出版社/メーカー: 大修館書店
- 発売日: 2000/05/10
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(手元にあるのは昭和40年代に刊行された縮刷版で索引込みで全13巻のもの)で調べてみても大体同じ感じ。諸橋の大漢和は流石というか、JRが使っている金偏に矢「金矢」という字も載っていて、やじりという意味で「鏃」に同じとある。