岩堀長慶(編),線形代数学,裳華房(1982)

線形代数学 (1982年)

線形代数学 (1982年)

岩堀長慶、近藤武、伊原信一郎、加藤十吉の4人による共著。豪華ですね。

線型代数の本で、例題として幾何ベクトルを題材とする書物は多い。しかし幾何ベクトルがアフィン空間の枠組みで議論されることに無頓着な書物も多い。しかし本書ではアフィン空間の枠組みをきちんと提示した上で幾何ベクトルを題材としているのが良い。但し射影幾何学までは行き過ぎという気もしないではないが、、、。

第一章は、行列と数ベクトル空間。

数ベクトル空間といいながら、定理の証明などの多くの部分は数ベクトルに限定されないようにと、抽象的な記述をしている。もちろん掃きだし法などは数ベクトルに限定されているわけだが。

第二章は、線型空間

一度線型代数を学んだ人が見直すには良くできているコンパクトな構成。例の記述もシンプルなため、どちらかといえば、線型代数の講義の前に話す内容を考えるときに参考にすると効率が良くなるという感じ。

第三章は、行列式

置換による行列式の定義。この定義から行列式の多重線型性の証明。多重線型性と交代性をみたす関数が行列式の定数倍に限られることを証明し、これを利用してdet {AB} = det A \cdot det Bの証明。余因子展開と、それを利用してクラメルの公式。

第四章は、n次元幾何学への応用。

アフィン幾何学の話。アフィン同型と座標変換などは説明されるが、アフィン部分空間については説明されない。アフィン空間に計量を定義してユークリッド空間が定義される。n次元有向体積の定義。行列式を用いてn次元空間における外積の定義。

次に射影幾何学の話。複比を行列式で表現したのには目から鱗が落ちた感じだ。もちろん複比を正弦で定義する立場もあるのだから、行列式で書けるのは当然だが気がつかなかった。ともかく、射影幾何の超入門、というところでこの章は終わる。

第五章は、線型変換の標準形。P^{-1}APによる同値関係に従ってジョルダン標準形に至る道を丁寧に。

第六章は、計量と二次形式についての理論。正規変換とそのスペクトル分解、二次曲線と二次曲面の分類。

第七章は、行列の極限、冪級数、非負行列。非負行列はグラフと関連させて。

第八章は、線型計画法の簡単な教科書になっている。

初学者にはちょっと難しいが、工学以上理学未満という感じで、線型代数で証明をきちんとこなさずに計算手法として学んできた人が証明をこなそうとするときに読んでみるとちょうど良い難易度。あと線型空間、アフィン空間、ユークリッド空間の違いをきちんと説明してある本が少ないので、それをきちんと知りたい人は読むと良いかも。

ちなみに、線型空間はゼロベクトルを含むベクトルの集合。アフィン空間は点の位置関係がベクトルで記述できる空間のことで、線型空間を平行移動してできる空間となる。ユークリッド空間はアフィン空間で計量が定義されている空間、つまり点の位置関係が計量線型空間によって記述できる空間のこと。

うーん、おおざっぱ。