池田八洲彦他,現代線形代数-分解定理を中心として-,共立出版,2009.

現代線形代数 ―分解定理を中心として―

現代線形代数 ―分解定理を中心として―

伊理韓で線型代数を学んだ身としては、行列代数はやっぱり行列の分解が一番重要かと思うので、こういう本は読んでいて楽しい。

主成分分析において第1主成分の直交補空間で第2主成分を探すということが行なわれるが、同時に2成分を動かしたときに射影後の分散が最大となる2次元空間と、第1、第2主成分が張る2次元空間が一致する、というようなことをきちんと書いている本はほとんどない。だから自分は講義においてラグランジュの未定乗数法を利用して証明した訳だが、この本にある「演算子2ノルム」を用いると微分を使わずに証明できる。これはちょっと感動するとともに自分の不勉強さを恥じ入る。詳細は12章6節の「階数分析への応用」を参照のこと。演算子ノルムについて読むためだけでも、この本は買う価値がある。

CS分解って始めて聞いた.これはそのうち何かに使えそうだ。

6章17節でビネ・コーシー展開について述べてあり、その後すぐにベクトルの外積を定義している訳だが、折角ビネ・コーシー展開の例でd e t (a,b)^{T}(a,b)を扱っているのだから、{\bf a}\times{\bf b}=(p,q,r)^Tとしたときに、

|{\bf a}\times{\bf b}|^2=p^2+q^2+r^2

が成立し、

|{\bf a}\times {\bf b}|^2=||{\bf a}||^2\cdot||{\bf b}||^2-({\bf a}\cdot{\bf b})^2 =d e t ({\bf a},{\bf b})^{T}({\bf a},{\bf b})

も成立するので,

d e t ({\bf a},{\bf b})^{T}({\bf a},{\bf b})=p^2+q^2+r^2

が成立するという、外積とビネ・コーシー展開の関係について触れても良かったのではないかと思った。

 A m\times n行列のとき、 d e t A^T A Aの各列でできる m次元ベクトル n本で作られる平行 2n面体の n次元体積になる、という話は結構大切だと思うが。

問題6.8の X=ax+bz+cy, Y=ay+bx+cz, Z=az+by+cxのとき

 (a^3+b^3+c^3-3abc)(x^3+y^3+z^3-3xyz)=X^3+Y^3+Z^3-3XYZ

を示せという問題は個人的に思い入れがある問題なので非常に感慨深い。