齋藤正彦著,線型代数演習,東京大学出版会(1985)

線型代数演習 (基礎数学 (4))

線型代数演習 (基礎数学 (4))


前回紹介した、齋藤正彦の線型代数入門の演習書であり、入門が発刊してから20年近く後の出版である。
著者は

「入門」で単因子論によってジョルダン標準形を扱ったのを反省したそうで、単因子論は除外されており、入門書よりは敷居が低くなっていてとっつき易くなっている。演習書ということもあり基礎事項はかなり省略されているが、筆者にとっては逆にコンパクトに纏まっていて使い易くなり演習書としてだけでなく、線型代数の教科書としても使い勝手が良いように思う。

また、演習書のつねとはいえ、計算練習以外の問題は、大部分がいろいろな本や論文から借りたものである。その意味で本書全体がいわば剽窃である。いちいちお断りもしなかったが、ここにまとめてお礼を申し上げておく。と述べているところからも、著者の謙虚さと、構成に関する自信の程が窺えるだろう。実際、筆者が線型代数に関してうろ覚えの知識があったとき、まっさきに調べるのが本書である。これは本書を手にしてから今もって変わっていない。

「入門」と比べて強化された点は、演習書ということもあり工学的な観点も含まれたということであろう。実際、「入門」では登場しなかった一般逆行列特異値分解が登場しているのである。ただし、一般逆行列から最小二乗法という流れはあるものの、特異値分解は別個に扱われていて、ムーアペンローズ逆行列との関係について述べられているに過ぎないのは残念である。