沼田久・行方常幸・森本仁・河口敏子・林善之・山本隆範著,経済・社会・工学・農学系のための線形数学(改訂),エフ・コピント・富士書院(1988)

まえがきが1989年3月、奥付が1988年4月となっているので、どちらかが間違いだろう。とりあえず奥付を採用しておく。

この本は北海道ローカルの書物と言っても過言ではない。6人の著者および出版社は全て北海道でもあるし。ただ、アマゾンでも買えるようだから紹介しても問題なかろう。アマゾンでは1989年1月発行となっている。うーむ、謎だ。

第1章は行列。数ベクトルを定義するが、それが正規直交基底でることを前提として内積を定義している。そして行列の定義。基本的に事実の羅列であるが、タイトルにあるように、各方面で行列がどう使われているかの例が豊富であり、材料力学の例ではヤコビ行列も登場している。個人的には大事だと思っている記述が例題に埋もれているのは残念。

第2章は行列式。置換を用いて定義して行列式の多重線型性について述べ、行列式の展開と逆行列。クラメルの公式は行列式の展開式との成分比較で。多重線型性を使ったほうが分かりやすいと思うのだけど、まぁ、こっちがスタンダードかな。

第3章は行列の階数・1次独立・次元。線型写像もここで述べる。まぁ普通。

第4章は連立1次方程式。基本変形で解をパラメータ表示する流れ。好ましい。掃き出し法を説明し、連立1次方程式を掃き出し法で解く、行列を掃き出し法で三角化して行列式を求める、逆行列を掃き出し法で求める方法について説明する。行列式を掃き出し法で求めさせるのは良いアイディアだ。

第5章は空間のベクトル。外積を説明してモーメントの話。スカラー三重積とベクトル三重積。あとは1985年から1994年までの高校で習った空間ベクトルの話をランクや行列式でやる話。例えば空間の2直線の位置関係を調べたり、ねじれの位置にある2直線の共通垂線分の長さを求める方法とか。

第6章は固有値。基本的に普通の流れであるが、相似な変換によって固有多項式が変わらないことから、行列を相似な変換で単純な形に整理して(Jordan標準形を目指すのではなく)求める手法は面白い。具体的にはX

X=\left(\begin{array}{cccc} 0 & \cdots & 0 & a_n \\ 1 & & 0& a_{n-1} \\ & \ddots & & \vdots \\ 0 & & 1 & a_1 \end{array}\right)

とすると、Xの固有多項式が 

\lambda^{n}-a_1\lambda^{n-1}- \cdots -a_{n-1}\lambda-a_n

となることを利用する。確かに面白いが相似な変換で変換するのは馴れないと難しそうである。

第7章は2次形式。シルベスタの慣性法則、対称行列の対角化、ジョルダン標準形、二次曲面の分類をやる。ジョルダン標準形は結果だけ。

第8章は非負行列。さらっと流す程度。

第9章は凸集合と1次不等式。線型計画法の理論の準備。Stiemke,Tuckerの定理もやる。

第10章は線形計画法シンプレックス法などを例題でじっくり説明している。

第11章は論理と集合。線型代数とかではなく、普通の論理と集合の話。真偽表とかね。

基本的に、理論は誰かが示してくれているから信じなさい。本書では例題を用いて使い方を教えますというスタンスの本である。例題は結構豊富なのでその意味では役立つ本である。個人的には固有多項式基本変形の組み合わせで求める手法が気に入った。行列式を三角化による求める方法も含めて

基本変形万歳!!

という感じ。

2020.11.18記
上記書評を書いてはら、ほぼ15年経っている。その時期は非負行列にはあまり興味がなかった時期だったので気にしなかったのであるが、最近、久々に非負行列の勉強を再開して読み直してみると、なかなか良いではないか。

第8章は非負行列。さらっと流す程度であるが、結構大事なことが書いてある。