行列の指数関数 exp A について(ext(tA)の微分)

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の後半には、ラプラス変換を用いない方法があり、このブログで述べた、ヘビサイドの cover up 法を使うよりも、わかり易い。\exp A を直接求めるには、ヘビサイドの cover up 法が良さそうだけど、\exp (tA) を直接求めるようにすると、これを t の関数と考えて微分することができるので、条件式が簡単になるのか。

行列の指数関数 exp A の求め方の一般論のアウトライン - 球面倶楽部 零八式 mark II

の記号を援用して説明する。細かいことは気にしないようにして欲しい。

行列 A の固有多項式\Phi_A(x) とするとき,
p(x)\sim_{\Phi_A(x)} q(x) なる n-1 次以下の多項式 q(x) が存在すれば p(A)=q(A) となるのであった。

これは t をパラメータとする関数  F(x;t)=f(tx) に対しても同様で、F(x;t)\sim_{\Phi_A(x)} G(x;t) なる t をパラメータとする n-1 次以下の多項式 G(x;t)=g(tx) が存在すれば F(A;t)=G(A;t),つまり f(tA)=g(tA) となる。

行列の指数関数 exp A の求め方の一般論のアウトライン - 球面倶楽部 零八式 mark II

で述べたように、F,G がみたす条件は、
 \left.\dfrac{\partial^u F(x;t)}{\partial x^u}\right|_{x=\alpha_i}=\left.\dfrac{\partial^u G(x;t)}{\partial x^u}\right|_{x=\alpha_i}i=1,\ldots,k;u=0,\ldots,n_i-1
となるが、
 \dfrac{\partial^u F(x;t)}{\partial x^u}=t^u f^{(u)}(xt)
であり,
G(x,t)=g(tx)=h_{n-1}(t)x^{n-1}+\cdots+h_1(t)x+h_0(t)とおくと、
 \dfrac{\partial^u G(x;t)}{\partial x^u}={}_{n-1}\textrm{P}_u h_{n-1}(t)x^{n-1-u}+{}_{n-2}\textrm{P}_u h_{n-2}(t)x^{n-1-u}+\cdots
となるので,これらの条件は
 t^u f^{(u)}(t\alpha_i)={}_{n-1}\textrm{P}_u h_{n-1}(t)\alpha_i^{n-1-u}+{}_{n-2}\textrm{P}_u h_{n-2}(t)\alpha_i^{n-1-u}+\cdots
i=1,\ldots,k;u=0,\ldots,n_i-1
となる.

f(x)\Phi_A(x)(の根と重複度)が与えられたとき,これら条件をみたすような h_0(t), \ldots,h_{n-1}(t) を求めることにより、
f(tA)=F(A;t)=G(A;t)=g(tA)=h_{n-1}(t)A^{n-1}+\cdots+h_1(t)A+h_0(t)I
が成立することになる。これらh_j(t)j=0,\ldots,n-1)を求めるためには連立方程式を解く必要があるが、次数が小さいときはそれほど面倒ではない(例えばA が3次のときは、関数3つ、式3つの連立方程式を解くことになる)

特に f(x)=e^x のときは
 t^u e^{t\alpha_i}={}_{n-1}\textrm{P}_u h_{n-1}(t)\alpha_i^{n-1-u}+{}_{n-2}\textrm{P}_u h_{n-2}(t)\alpha_i^{n-1-u}+\cdots
i=1,\ldots,k;u=0,\ldots,n_i-1
を解くことによって \exp(tA)A多項式で表すことができることになる。固有値\alpha,\alpha,\beta のときは連立方程式
\alpha^2 h_2(t) +\alpha h_1(t) +h_0(t) = e^{\alpha t}
2\alpha h_2(t) + h_1(t)  = te^{\alpha t}
\beta^2 h_2(t) +\beta h_1(t) +h_0(t) = e^{\beta t}
つまり
\begin{pmatrix} 1 & \alpha & \alpha^2 \\ 0 & 1 & 2\alpha \\ 1 & \beta & \beta^2 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} h_0(t) \\ h_1(t) \\ h_2(t) \end{pmatrix} =\begin{pmatrix} e^{\alpha t} \\ te^{\alpha t} \\ e^{\beta t}  \end{pmatrix}
を解けば良く,行の基本変形から
\begin{pmatrix} 1 & \alpha & \alpha^2 \\ 0 & 1 & 2\alpha \\ 0 & 0 & 1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} h_0(t) \\ h_1(t) \\ h_2(t) \end{pmatrix} =\begin{pmatrix} e^{\alpha t} \\ te^{\alpha t} \\ \dfrac{e^{\beta t}-e^{\alpha t}}{(\beta-\alpha)^2} -\dfrac{te^{\alpha t}}{\beta-\alpha} \end{pmatrix}
となるので,
\exp(tA)=h_2(t)A^2+h_1(t)A+\left(e^{\alpha t}-\alpha h_1(t)-\alpha^2 h_2(t)\right) I
=h_2(t)(A^2-\alpha^2 I) +h_1(t)(A-\alpha I)+e^{\alpha t} I
=h_2(t)(A^2-\alpha^2 I) +\left(te^{\alpha t}-2\alpha h_2(t)\right)(A-\alpha I)+e^{\alpha t} I
=h_2(t)(A-\alpha I)^2 +te^{\alpha t}(A-\alpha I)+e^{\alpha t} I
=\left\{\dfrac{e^{\beta t}-e^{\alpha t}}{(\beta-\alpha)^2} -\dfrac{te^{\alpha t}}{\beta-\alpha}\right\}(A-\alpha I)^2 +te^{\alpha t}(A-\alpha I)+e^{\alpha t} I
と求まる。

なかなかいいな。この方法。でも3次ぐらいならば、因数定理の運用した方が楽に思う。まぁ一般化できるから数学は面白いのだけど。