S.Lang(芹沢正三訳),ラング線形代数学,ダイヤモンド社(1971)

ラング線形代数学 (1971年)

ラング線形代数学 (1971年)

この本は数年前に古本屋で買ったもの。個々には面白い所もあるのだけど、芯が通っていない感じがしてあまり好きではない。

第1章はR^nにおけるベクトル。昔の高校で習った平面ベクトル、空間ベクトルに複素数を加えたもの。複素平面には明に触れていない。ユークリッド基底を仮定して内積を導入。

第2章はベクトル空間。関数も例に出している。基底は線型独立な元の極大部分集合として定義。いくつかの定理を述べるだけで深入りはしていない。

第3章は行列。簡単な定義の後に一次方程式系へ。線型結合の係数が変数であるという見方を提示するに留める。行列の乗法はベクトルの内積。双対空間やテンソルを意識した記法を採用。

第4章は線形写像。例として微分写像を用いるのは好みのようだ。像と核の次元の和が全体の次元になること、同形写像、線形写像と簡単に触れる。

第5章は線形写像と行列。何故かこの章にはこだわっている。線形写像と表現行列を区別しており、しかも写像前の基底、写像後の基底を使って

(表現行列)=M_{原空間の基底}^{像空間の基底}(線形変換)

と気合を入れて表現しており、自分への写像において写像前と写像後の基底が異なる場合、高等写像に対応する表現行列は単位行列とならないと述べている。著者はこれが書きたかったに違いない。

第6章は行列式。多重線形性によって定義しており、具体的な表記が表に出ないままクラメルの公式を天下り的に証明している。そのあと行列式の存在を示す。この示し方は面白い。小行列式を用いた行列式の展開を利用して帰納的に次元を落としていき、1×1行列の行列式に帰着させる方法をとる。ここでも行列式の具体的な表記は顔を出さない。

その後、置換を定義し、置換を用いて先ほどの行列式が置換で表現できることを、行列式の一意性を用いて議論する。そして転置の行列式、行列の積の行列式について置換を用いて議論する。

逆行列についてはクラメルの公式を利用する。ここに行列式を定義する際の小行列式による展開が顔を出して、余因子行列が自然と導かれる。この部分は見事だ。

第7章はスカラー積と直交性。内積フーリエ級数、グラム=シュミットの直交化法、シュバルツの不等式について述べ、エルミート積(複素ベクトル空間の内積)について同様の議論をする。後は一般の直交基底、双対空間と続き、なんと、ここで行列の階数が登場する。

行列Aによる線形写像に対して

(像の次元)+(核の次元)=(原空間の次元)

連立方程式Ax=0の解集合と比較して

(列の張る空間の次元)+(解集合の次元)=(行の次数)

と同じ構造をしていることに着目して行列の階数を説明している。面白い試みである。

第8章は行列と双線形写像。対称作用素などの各種作用素について説明し、2次形式とシルベスターの慣性法則について述べる。

第9章は多項式と行列。行列に関する多項式固有値固有ベクトル、特性多項式を扱う。

第10章は、行列の三角化。ファン基底という言葉はこの本で始めて知った。他の本ではまだ見たことがないが。これを用いてハミルトン=ケーリーの定理を証明している。面白い。

第11章はスペクトル定理。

第12章は多項式素因数分解。不変部分空間への分割とシュアの補助定理。

第13章は多重線形積。テンソル積、交代積。

第14章は群。第15章は環。付録に凸集合などを書いて終了。

特筆すべきものは、行列式の件と、線形写像と表現行列の部分だ。