2024年(令和6年)東京大学大学院数理科学研究科数理科学専攻修士課程専門科目A(必答)



第1問
3次巡回行列の固有値・固有空間の話.T_{a,b,c}固有値\omega=\dfrac{-1+\sqrt{3}\sqrt{-1}}{2} とおくと
c+a+b\alpha=c+a\omega^2+b\omega\overline{\alpha}=c+a\omega^2+b\omega
であり,対応する固有ベクトルは順番に
\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\  1\end{pmatrix}\begin{pmatrix} 1 \\ \omega \\  \omega^2\end{pmatrix}\begin{pmatrix} 1 \\ \omega^2 \\  \omega\end{pmatrix}
である.ここで
\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\  1\end{pmatrix}\perp\begin{pmatrix} 1 \\ \omega \\  \omega^2\end{pmatrix}\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\  1\end{pmatrix}\perp\begin{pmatrix} 1 \\ \omega^2 \\  \omega\end{pmatrix}
から,\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\  1\end{pmatrix} の直交補空間 x+y+z=0 の像は x+y+z=0 に含まれることがわかる.

なお,T_{a,b,c} の表す線型変換は軸 \begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\  1\end{pmatrix} に関して120度回転した位置にある基本ベクトルを,軸 \begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\  1\end{pmatrix} に関して120度回転した位置にあるベクトルに移すので,軸 \begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\  1\end{pmatrix} に関するずらし変換と拡大と軸 \begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\  1\end{pmatrix} に関する回転の合成で表現できる.そして線型独立な基本ベクトルの像が全て \vec{x}\mapsto rR_{(1,1,1)} \left\{\vec{x}+k\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\  1\end{pmatrix}\right\} の形でかけるので、全てのベクトルの像がこの変換に従うことがわかる.

よって T_{a,b,c} の rank が 1 ならば、T の image は軸 \begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\  1\end{pmatrix} となる.よって求める条件は a=b=c\neq 0

(2) (1) のとき,T_{a,b,c} は実対称行列であるから ker は image \begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\  1\end{pmatrix} の直交補空間で x+y+z=0 であり,これが T_{p,q,r} の image である.

このとき,\begin{pmatrix} r \\ q \\ p\end{pmatrix}\begin{pmatrix} p \\ r \\ q\end{pmatrix}\begin{pmatrix} q \\ p \\ r\end{pmatrix}x+y+z=0 上で(縮退せずに)正三角形をなすことが必要十分であるから求める必要十分条件

p+q+r=0 かつ 「p=q=r=0ではない」

となる.


第1問 [解答]
(1) \begin{pmatrix} X \\ Y \\  Z\end{pmatrix}=T_{a,b,c}\begin{pmatrix} x \\ y \\  z\end{pmatrix} とおく.

\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\  0\end{pmatrix}\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\  0\end{pmatrix}\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\  1\end{pmatrix} の像 \begin{pmatrix} c \\ b \\ a\end{pmatrix}\begin{pmatrix} a \\ c \\  b\end{pmatrix}\begin{pmatrix} b \\ a \\  c\end{pmatrix}
平面 X+Y+Z=a+b+c 上の3点で,どの2点間の距離も \sqrt{(a-b)^2+(b-c)^2+(c-a)^2} で等しい3点となっている.

(i) a+b+c=0 のとき:

(a) 3点と原点は同一平面上にあり,
\sqrt{(a-b)^2+(b-c)^2+(c-a)^2}=0a=b=c=0)のとき,
基本ベクトルの像は全て零ベクトルになるので
\mbox{Image}\, T_{a,b,c}=\{\mathbf{0}\}
となり,
\mbox{rank}\, T_{a,b,c}=0\mbox{Ker}\, T_{a,b,c}=\mathbb{R}^3
となる.

(b) \sqrt{(a-b)^2+(b-c)^2+(c-a)^2}\neq 0a=b=c=0ではない)のとき,
基本ベクトルの像は原点を通る平面 X+Y+Z=0 上で原点を重心とする(1点でない)正三角形をなすので
\mbox{Image}\, T_{a,b,c}=\{(X,Y,Z)\,|\, X+Y+Z=0\}
となり,
\mbox{rank}\, T_{a,b,c}=2\mbox{Ker}\, T_{a,b,c}=\mbox{Span}\left\{\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\  1\end{pmatrix}\right\}…(★)
となる.

(ii) a+b+c\neq 0 のとき:

3点を含む平面は原点を含まないので,

(a) \sqrt{(a-b)^2+(b-c)^2+(c-a)^2}=0a=b=c\neq 0)のとき,
基本ベクトルの像は全て一致し,零ベクトルではなく,全ての成分が同じで \begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\  1\end{pmatrix} に平行であるから
\mbox{Image}\, T_{a,b,c}=\mbox{Span}\left\{\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\  1\end{pmatrix}\right\}
となり,
\mbox{rank}\, T_{a,b,c}=1\mbox{Ker}\, T_{a,b,c}=\{(X,Y,Z)\,|\, X+Y+Z=0\}
となる.

(b) \sqrt{(a-b)^2+(b-c)^2+(c-a)^2}\neq 0 のとき,
基本ベクトルの像と原点で正三角錐をなすので
\mbox{Image}\, T_{a,b,c}=\mathbb{R}^3
となり,
\mbox{rank}\, T_{a,b,c}=3\mbox{Ker}\, T_{a,b,c}=\{\mathbf{0}\}
となる.

以上から,a=b=c(\neq 0)必要十分条件

(2) (★)の場合((1)(i)(b))となれば良いので「p+q+r=0 かつ p^2+q^2+r^2\neq 0」である.

第2問

結局、単位球面上で \sum x_i^3 の値域を考えているのだから,最大値,最小値は存在し,最大値は 1つだけ正で残りが全部0の場合で1,最小値は全部等しいときで \dfrac{1}{\sqrt{n}} となる.

第2問 [解答]
(1) \dfrac{\partial f}{\partial x_i}=\dfrac{3x_i^2}{||\mathbf{x}||^3}-3\dfrac{\sum x_i^3}{||\mathbf{x}||^4}\cdot \dfrac{x_i}{||\mathbf{x}||}=\dfrac{3x_i^2}{||\mathbf{x}||^3}-\dfrac{3x_i \sum x_i^3}{||\mathbf{x}||^5}=0
により
x_i(x_i ||\mathbf{x}||^2-\sum x_i^3)=0
だから,x_i\neq 0 となるものを z_k とすると
z_k \sum z_k^2=\sum z_k^3 for all k
\min z_k=m\max z_k=M とおくと
\sum z_k^3=m \sum z_k^2\leqq M \sum z_k^2=\sum z_k^3
から m \sum z_k^2=M \sum z_k^2 であり,\sum z_k^2\neq 0 から m=M となる.つまり非零の x_i は全て等しくなる.

よって「\mathbf{x} は非零の成分が全て等しいような点」となる.

(2) y_i=\dfrac{x_i}{||\mathbf{x}||} for all i とおくと
\sum y_i^2=1y_iは非負で全てが0でない)のときの \sum y_i^3 の最大値,最小値を求めれば良い.

0\leqq y_i\leqq 1 for all i より
y_i^3\leqq y_i^2 for all i(等号はy_i=0 or 1) より
\sum y_i^3 \leqq \sum y_i^2=1
だから最大値は y_i が1つだけ正で残りが全部 0,つまり x_i のうち1つだけが正で残りが全て 0 の場合で 1 となる.

また,y_i^2=t_i とおくと
\sum t_i=1 のときの \sum t_i^{3/2} の最小値を求めることになる.
f(t)=t^{3/2} は下に凸だから Jensen の不等式により
\dfrac{1}{n}\sum t_i^{3/2}\geqq f\left(\dfrac{1}{n}\sum t_i\right)=f\left(\dfrac{1}{n}\right)=\dfrac{1}{n\sqrt{n}}
だから
\sum y_i^{3}\geqq \dfrac{1}{\sqrt{n}}(等号成立は全ての y_i が等しいとき)
となる.よって最小値は全ての x_i が等しいときで \dfrac{1}{\sqrt{n}} となる.

(この解法は想定してないだろうなぁ)

最小値を求めるときの議論に用いる累乗平均の単調性は有名で,例えば

manabitimes.jp

参照のこと.ついでにこれも.

累乗平均(p乗平均) - 球面倶楽部 零八式 mark II